マドリード Madrid


スペインの首都マドリードの美術館といえば、裸のマハ、着衣のマハを描いたゴヤ、エルグレコ、ベラスケスなど巨匠の絵を所蔵するプラド美術館が有名である。この美術館は世界3大美術館の一つと言われ年間400万人の集客力を誇っているがプラド美術館から500メートル程歩くと、スペイン海軍所属の海事博物館がある。


海事博物館はプラド美術館と異なり年間の訪問者が2万人にも満たないようだが、かつての海軍大国スペインの歴史が展示されている。展示内容は世界に先駆けて大航海時代を開いたスペイン、スペインの世界制覇の航海や航海術の発展、1751年のレパントの海戦、1805年のトラファルガー海戦で参戦した船、さらには近年までの海軍の歴史等々。それぞれの年代やテーマ別に、絵画や歴史上の人物の肖像画とともに展示されている。

 

帆船模型のモデラーにとっては必見の場所で、模型の迫力ある展示が楽しめる。また、1492年のコロンブスの新大陸到達以降1898年の米西戦争までの歴史の知識を多少仕込んで訪問すると、展示内容への理解度が一段と深まる。



入館は無料だが、入館時に制服を着た軍人によるパスポートのチェックや空港と同様の安全検査が行われる。観光気分から一転、 これから海軍所属の施設に入るのだと多少ながら緊張する。展示の解説はスペイン語で英語の併記はない。ミュージアムショップで販売されている資料や書籍も スペイン語が中心で、英語の抄訳がついているものもあるが、プラド美術館のように広く世界から訪問者を受け入れる姿勢は残念ながら見受けられない。入館に 際して配布される案内パンフレットはスペイン語で紙一枚の簡単なものだが、過去には英語のパンフレットも準備されていたようで、インターネットを探しまわると2009年版海事博物館 Maritime Museum が見つかった。運営は、国家予算と篤志によっているためか、英文のパンフレットも常備されているわけでもなく、展示品にも明らかに個人の寄贈、遺贈品と思 われるものもある。但し、個人の名前などの記載やプレートは一切なく、博物館としての格の維持には配慮している姿勢も窺われた。

この博物館は、資料によると、1790年に設立の構想企画が行われたが正式な開館は半世紀を経た1843年となっている。設置場所は変遷しているようで、現在の海軍省の一画にある博物館は1932年に開館されている。因みに海軍省は1714年に設立されている。スペインの歴史を少し振り返ると、1556年にフェリペ2世が即位して始まったスペイン・ハプスブルク朝が1700年に断絶してブルボン朝が成立した時期に重なり、1714年は丁度、スペイン継承戦争が終結したタイミングとなっている。1789年にはゴヤがカルロス4世お抱えの宮廷画家に任命されている。開館された1843年前後では、1824年にキューバ、プエルトリコを除くほぼ全てのラテンアメリカのスペイン植民地の独立が確定している。そういった時代背景を持っている海事博物館である。


これまでにこの博物館を訪問した趣味の仲間も多くおられると思うが、自分は仕事でマドリードを訪問した2007年7月と2011年12月にこの博物館に出向いている。初回の訪問では写真撮影は一切禁止されたが、二度目ではフラッシュ禁止ながら手持ちのデジカメで撮影が許可された。多少興奮気味に2時間程の訪問で100枚を越える写真を撮影した。模型はガラスケースに入れて展示されている。ガラスの質が良くなく、照明が反射したりして細部が分かる鮮明な写真を撮影するのは難しいが、アングルを色々変えて試みた。代表的な帆船模型6隻のそれぞれの船の歴史、模型の製作時期、材料、博物館への搬入時期などは下記の通り。

1.Galeon Nuestra Senora de Concepcion y de las Animas (船の年代1687年~1705年)
【模型製作2000年、縮尺1/20、博物館搬入所有時期2001年5月に個人より遺贈】
2.Midshipmen's Training Vessel (1750年)【推定1750年、1/24、1846年5月に造船所から搬入】
3.The Frigate Santa Rosalia (1767年~1802年)
【1767年、1/16、1770年に造船所所在が確認されているが1844年に搬入】
4.The Warship Santa Ana (1784年~1816年)【1824年、1/20、1846年9月に造船所から搬入】
5.The Frigate Diana (1792年~1822年)【1791年、1/24、1847年6月に造船所から搬入】
6.The Warship Real Borbon(1819年)【1819年、1/32、1847年6月にマドリード王宮より搬入】
この船は実際には建造されなかった。資料によると、スペイン海軍が3デッキの戦艦を18世紀後半から次々に失ったタイミングで、王宮でこの模型が製作されている。
大型帆船模型は展示室が独立していて周囲を説明の絵画で盛り上げている。

今回の二度目の訪問でこれらの模型を観察して思ったことは二つある。
第一に、展示模型は実船が造船された時期に製作され、博物館の開館に合わせて集められた模型は迫力がある。大型模型は精密に工作されており、マストやヤードを省略して船体の構造や中身を見れるようになっている。造船の歴史に関する資料は世の中に多々あるが、会の大先輩で既に鬼籍に入られた竹内さんや白井さんが蔵書とされていたWolfram zu Mondfeld著作のHistoric Ship Modelsに書かれているような細部が良く分かる。書物で得た知識が次第に増えてきて、これらを実際に製作された模型で確かめるのは非常に楽しい発見と経験になる。
第二に、模型がしっかりとしたガラスケースに保管され展示されている。木製帆船模型モデラーの端くれとして考えたことは、個人の趣味の世界とはいうものの、作品を自分にとどめず広く鑑賞に供するため、また、後世にも残すためには、工作はごまかさずにしっかりとした頑丈な船を作ること、そして、奮発してケースなどに入れて飾り、破損やちり埃対策を施すことである。

 

補足
1.この博物館に関する日本語の情報は残念ながら観光レベルにとどまり、訪問前の収集レベルには不満足と思う。スペイン語になるが、インターネットで検索 する場合は、Museo Naval Madridで検索。

ヒットした中に Inicio Museo Naval de Madrid - Naval Museum Armada Espannola  が出てくる。このサイトにアクセスすると、ポータル画面にVISITA AL MUSEO NAVALのビデオへアクセスすることができる。雰囲気は分かる。
2.最初の訪問で展示されている模型の写真入り大型イラスト書籍を買い求めた。第二回目の訪問でミュージアムショップにこの書籍を聞いたところ既に絶版に なっている模様。ネットのアマゾン日本で調べたところ、中古のサイトとなるが、海外の出品者から入手できそうなことが分かった。スペイン語と英語の抄訳 付、模型の写真が豊富。
書名 Modelo de Arsenal del Museo Naval  出版社LUNWERG  2004年

(栗田正樹)

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