チャタム造船所 Chatham Dockyard


ロンドンから東へ55km離れたチャタムに、16世紀に建設されたチャタム造船所が海事博物館として一般公開されている。当時、イギリス最大の造船所はデットフォードであったが、次がチャタム、以下ウリッジ、ポーツマス、ハリッジの順であった。


チャタム造船所はメドウェイ川に面した王立造船所で最盛期の敷地面積は400エーカー(49万坪)あり、熟練工は1万人以上に達したと記録されている。建造した軍艦は1984年の閉鎖までの414年間に500隻以上になる。著名艦はやはりポーツマスの「ビクトリー」で、建造したドックには今も「ビクトリーはここで建造」の碑が建っている。

 

見学のアクセスはロンドンのビクトリア駅(Victoria Station)からブリット・レール(BR)鉄道のドーバー(Dover)行きまたはラムズギット(Ramsgate)行きに乗ると44分でチャタム駅に到着する。列車は30分毎の発車している。

 


16世紀建築のチャタム造船所正門門上の王室紋章
16世紀建築のチャタム造船所正門門上の王室紋章

駅からタクシーに乗り、北に向かうと間もなくお城のような正門に出会う。門の上には王室の紋章があり、運転手がすかさず「Dockyard Main Gate」と言ったので、なんだ駅からこんなに近いのかと思ったが、タクシーは門を潜らないで横のチャタム海事博物館入口道路をドンドン北に向かい、造船所北端にある工場建物を使った博物館入口に到着した。

 

歴史的な正門は傾斜地にあって駐車スペースがないので閉鎖し、北端の平地に駐車場を作り、入口を作った。入館料は大人£14で、チケットは12ヶ月有効。イギリスの博物館は無料が多く、有料でも1年間有効が多い。ただし、無料でも入場時には受付で来館番号入りのチケットを渡され、時節柄バッグ中味をチェックする博物館が多い。

 

展示ギャラリーに使用している提督執務室とその玄関
展示ギャラリーに使用している提督執務室とその玄関

入口建物からイベント広場に出ると、わあー広い~と感じる。それにレンガ壁の古い建物が沢山残っている。提督執務室(Admiral's Offices)の堂々とした建物と玄関の見事なデコレーション。扉の左右、上と屋根の彫刻は特に素晴らしい。戦列艦あるいはガレオンの船尾(スターン) 飾である。建物をぐるりと回って裏の入口にサービス展示ギャラリーに使用している提督執務室とその玄関ショップの案内があり、入っていくと帆船模型キット を棚一杯に置いてある。ここはキット販売と図面入手のサービス部門で、キットは日本でも購入できるイタリヤ製が多 い。この博物館の展示は5つの部門に分かれている。❶ ロープと帆の工場(The Ropery and The Sail Loft) ❷ 海事博物館(Museum of the Royal Dockyard) ❸ 木材加工場(Wooden Walls) ❹ 救命艇展示場(Lifeboat) ❺ 戦艦3隻の展示場(Historic Warships)である。

 

長さ344mのロープ工場(The Ropery)
長さ344mのロープ工場(The Ropery)

この博物館一番の見所は 「ロープ工場」で、建物は2階建で長さは1128フィート(344m)、幅47.5フィート(14m)もある。1階の工場入口から入るといきなり処刑のハ ンギングに出くわしギョットする。海軍廠の処刑にしばしば行われた見せしめの処刑であるが、なんとも刺激的である。しかし、これを見ると好奇心が沸いてく る人間とは不思議なものである。やがて子供たちの騒がしい掛け声が聞こえてきた。

 

ここでは午後に1日2回、長さ4m程の小型ロープ機を使って子供達にロー プ作りの体験実習を行っている。4世紀前の作業服姿のおじさんが麻糸を撚り合わせてロープを入口のハンギング作る仕組みを教えている。製造ラインは原料の 麻を2階に運び、2階全体を使って麻糸(ストランドStrand)を作り、ロープは1階のロープ工場で製造、帆は麻糸を別建物の織物工場に運んで布を織り 帆を製造した。麻糸の製造工程は先ずテープ状の麻原料を数センチの長さに切断して繊維(ファイバー Fiber)を作り、その繊維を混ぜ長さ344mのロープ工場(The Ropery)て絡ませたり梳いたりしながら綿状のふわふわしたロープ状態を作る。次にこの綿状のロープに撚りをかけて細い糸(ヤーン Yarn)を作り、さらにこの糸を2~3本撚り合せて麻糸(ストランド)が完成する。

 

当時、これらの機械を動かす動力は馬の力をであった。仕組みは帆船のキャプスタンのような回転軸の左右に柄を通し、その柄に馬の鞍を結び、馬を牽かせて軸をぐる細い糸(ヤーン)を作る機械ぐると回転させ、この回転力を1階と2階に伝えて機械を稼動した。なんとも原始的な方法で、馬が疲れてくると回転力が遅くなり回転数が安定しないが、これが普通の方法であった。動力源に蒸気機関を使用するのは1世紀後の17世紀後半からのことである。博物館に馬を使用した跡は残っていない。代わりに銅板にエッチングで描いた絵や、縮尺模型で動力の伝え方と仕組みを説明している。工場の中の作業では材料の加工毎の運搬などを全て人の力を使ったので、大勢の作業者が従事した。

1階のロープ工場の長さ344mはとにかく長い。建物内の端に立って眺めると奥が見えない。ひたすら歩いて中間付近まで行くと、やっと建物の端になる奥が見えてくる。建物の幅が14mで天井が比較的低いためか、すごく長い建物に見える。ビクトリーのメインマストはデッキから50mの高さがあるために、ヤード操作に使うロープ長は長いものでは200m近くのロープが必要になる。ロープは撚りあがるにつれて全長が短くなっていくのでこんな建物を長く作った。
現在の技術なら均一の撚りで、出来た部分から巻くことがロープ工場の中間付近で奥が見える出来て建物も長くする必要はないが、当時は撚りを均一にする方法としてはこの方法にするしかなかった。右の写真は十数本の麻糸を束にして撚りをかけるところ。

下写真2枚は建物の反対側の端で麻糸の束をそれぞれ回転して撚りをかける機械。撚りがかかるに応じて機械を前進させていく。右下はその機械の裏側回転部分。 なお、撚っている途中でロープがたれて床を擦らないように所々に移動式のロープ支えがある。


このロープ作り作業が始まると1 つのロットが終わるまで、途中の作業中断は出来ない。帆の製作は隣接した建物で作った。ロープ工場の2階で出来た麻糸を織機で布に織って、後は手作業で布 と布の縫い合わせや帆の周囲に補強で縫い付ける太いロープ(ボルトロープ)の取付け作業を全て手作業で行った。糸や布を扱う作業が多いため大勢の女性作業員が従事した。

 

ロープ工場の中間付近で奥が見える
ロープ工場の中間付近で奥が見える

麻糸の束をそれぞれ回転して撚りをかける機械
麻糸の束をそれぞれ回転して撚りをかける機械
その機械の裏側回転部分
その機械の裏側回転部分

この博物館は外に海事博物館、艤装品加工場など見所が多い。

(安藤雅浩)

 

ー本紀行文はザ・ロープニュースNo.64 (2009年6月10日発行)より転載しました。

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