第36回帆船模型展を終えて

 

 

展示会場の通路側面のショーウィンドウを飾ったキットの箱絵と外輪船とスクリュウ船の綱引き動態模型。
展示会場の通路側面のショーウィンドウを飾ったキットの箱絵と外輪船とスクリュウ船の綱引き動態模型。

 

新年恒例のザ・ロープ帆船模型展が1月16日(日)から22日(土)まで7日間開催された。今回の第36回展は会場を中央区銀座2丁目の伊東屋ギャラリーから千代田区有楽町2丁目の東京交通会館ゴールデン・サロンに移しての開催になった。35年前の第1回展から昨年までは伊東屋さんから会場提供など様々な支援を頂いての開催であったが、今回は会場探し、設営準備などの課題を自前で一つ一つ解決しながらの展示会になった。

新会場はJR有楽町駅東側の駅前にあり、地下鉄も5路線の駅に囲まれて徒歩数分の立地で、交通至便である。さらに、会場前通路はJR有楽町駅から地下鉄駅につながる連絡通路になっており、会期中の来場者は立地の良さが功を奏して昨年までの固定客の外に、初めての客も多数来場した。来場者は平日と休日に差がなく、時間的にも途切れることなく入場していて、1日平均640名、7日間の合計は約4,500名に達した。

展示作品数はほぼ昨年並みの55点で、作品の種類も16世紀から近代までの帆船が揃い、帆を張った船に楽しい情景模型(ジオラマ)会場入口の透明ガラス壁および構造模型と、バランスのとれた展示になった。その内、帆船教室参加者の出品(チャールズ・ヨット)が8隻あり、同じ船でも個性が出ていて初めての来場者は関心を持って見ていた。帆船教室募集の案内も好評で今後の帆船模型ファンの裾野拡大に期待がもてそう。

会場にはキットメーカーのウッディジョーさんと通信販売のマイクロクラフトさんから生花の贈呈を受けて華やかな雰囲気を醸していた。また、全国の同好会から多数の来場があった。発売1月号および12月26日発売2月号のイベント欄に計2回、写真付き紹介記事が掲載、12月発売の「世界の艦船」2月号にも写真付きで紹介記事が掲載された。新聞関係の紹介記事は12月17日「日本海事新聞」インフォメーションに「技と夢とロマンを乗せた展示会」として、1月8日「東京新聞」のあらかると欄に、1月12日「朝日新聞」都内版のマリオン欄に、1月14日「読売新聞」TOKYOホームページ欄に、それぞれ写真付きで掲載された。


会の36年間の展示会歴史の中で初めての会場変更であったが、出品者の意気込み、マスコミの多くの広報、予想を超えた入場者数、同好会からの来場などにより、会期は前回までに較べて短くなったものの、充実した展示会が開催出来たように思われる。会場の東京交通会館からも幾つかのギャラリーの中で「こんなに来場者が多くて盛況なのは初めてだ」との言葉を頂いた。有楽町風物詩の一つになるように努めたい。

 

楽しかりし第36回展覧会にちょっと参加して

チリン・・・と最初は優しげな音だが、やがて手の付けられない赤ん坊の泣き声もかくやと目覚ましが鳴り響く。定期的な朝起きの習慣から解放されてしばらく経つから、8時半に会場に着くには文明の利器を利用しなければならない。それにしても眠いよ。その昔、古参の軍曹は生き残りたければ絶対に「志願」をするなといったそうだが、だれか手伝って…と赤道さんに言われて、ついその気になって手を挙げたからこの始末だ。もっとも長いこと出品していない引け目もあった。それでも電車が順調で会場に8時ちょっと過ぎに到着したら、なんとまあもう数人のお手伝いが来ている。それも悔しいことにみんな楽しそうだ。こういう集まりのいいところは年寄りでも容赦なく使うところで、大部分が年寄りだからそれは当然だが頭の白いのやハゲたのがなんと活気のあることか。会場設営担当の肥田さんと木村さんの指図で壁面に帆船の写真を吊るすやら、机を予定通り並べるやら、入口に銘板を張るやら、白い布で机を覆うやら。これが意外に難しい。

木村さんが机を覆う布を60㎝垂らしてと図面や測定棒まで周到に用意してくれたが、なんせ素人の集団だから布を張るのも上手くいかない。折りたたんだ端を安全ピンで外から留めるがどうもみっともない。船を見せるんで、布を見せるんじゃないからと言い訳してみんな適当にあしらう。それでも船を載せたらどうして立派なものだ。やがて船の搬入が始まった。午後1時にはオープンだから絶対遅れるなと念を押されていたのが利いたらしい。模型陳列の位置決めと番号札など事前の準備が行き届いていて、これは会場設定全般にいえるのだが、掲示物の準備まで含めてその仕事はさぞ大変だったろう。今日はその集大成という感じでこういった準備作業に比べればお手伝いぐらいで文句を言っては罰が当たるというものだ。会期中の話だけれども、場所が少し狭いこともあって作品の撮影を担当した東さんがだいぶ難儀をされたらしい。昼間の撮影ができなくて夕方から夜間にかけて黙々と仕事に精を出したのだろう。ご一緒したタイの帆船クルーズの経験からしても、たとえ足が痛かろうとも仕事の質が揺るがないのはよくわかっている。こういう陰の力があるからいい記録が残る。

それはそれとして、時間に多少の例外はあったにしてもずらりと出展の船が並ぶと中々の壮観。会場入口は透明ガラスだから作業は通路から丸見えで、何事が始まったかと何人かが様子を伺っている。そのうちに持ち込まれる船につられてふらりと入ってくる人もいて、それだけに関心を引いていることも確かだ。とはいえ、こりゃまずいよと準備中の札を張ったりしたが、だんだんに人が増えてきてこっちの方が動物園の猿みたいな状態になった。順調に準備もできたし、1時間繰り上げて12時に始めようと田中会長が決断して、幸先のいい開会となった。

長い間の会場だった伊東屋ビルの9階は場所がら文具などを買いたいというお客さんでついでに寄ってみようという人が多くいたに違いない。その意味で客層の意識はかなり収束していたといえる。もちろん船が好きという人も断然多いが、今度の会場東京交通会館は交通の便がいいとはいってもごく普通の人たちの流れの中での開会だ。まして地下でもある。一般の道路と同じだから常連さんだけで人数がもつだろうかと心配だったのも無理はない。

終わってみると、これまでの展覧会に引けを取らない人たちが会場を訪れたのはまことに幸いだったが、それなりに工夫もされていたからだろう。展示会場の通路側面のショーウインドウはキットの箱絵オンパレードと、宮島さんと志村さんが共同製作した外輪船とスクリュウ船の綱引き。5分休んでは15分間また動く(モーターが過熱しないように休憩する)という動態模型だから特におばさま方に評判が良かった。止まっているときに、片側の船長さんが頭を下げて参りましたという風情が女性の心に響いたと“そこん所がいいわねぇ”といった人がいる。

動く模型でいえば満原さんのバウンティが入口で目立った。どうやら子供たちの関心を引いたらしく飽かずに眺めていた女の子がいた。ぽこんと泡が立って船が揺れるとひょいと背伸びする様子が可愛らしい。ぼくの知る限り水に浮かべられるスケールモデルを作ったのはこれ以外に横浜の会の角田さんしかいない。会場の実面積は伊東屋9階の会場よりも少し狭いそうだが、前より広く感じた人が多いという。これはおそらく壁面が白く明るいことと、展示台が壁に直接くっついていて広く感じられたせいだろう。そのために壁に展示した近代帆船の写真が良く目立った。この写真がいいですねぇといった人が多かったのはそのせいかもしれない。展示間隔がバラバラじゃあみっともないと上野さんが曲尺を振り回して修正したことも預かっている。会期中のお客に休憩を兼ねてという趣もないではないが、会場の奥に設えられた展覧会の作品集に見入る人も多かった。熱心な人がいて長時間見入っていたから気に入っていたんだろう、暇があるんだなぁなんていいたくはない。その奥に展示されたザ・ロープの活動を示すパネルは塩谷さんが手掛けたが、禿げた頭をクローズアップされたわが身にはちょっとねぇ。

展示した作品に言及する資格はぼくにはないが、坪井悦郎さんとそのガレー船「ラ・フロール・デ・リズ」だけにはちょっと触れておきたい。あの人は良く言えば怪物、悪く言えばバケモノだとぼくはひそかに思っている。身体を生後81年間もこき使った挙句、船尾に付くローマ字船名を10ミリ幅に5文字を彫るという目はそうでなければ維持できないからだ。腕相撲で負けたからといってこれは悪口ではない。坪井さんのクラフトマンシップに対する賛歌でなくてなんだろう。単に細かいというばかりでなく、彼には“スケールモデル”を作るという確たる信念がある。舷側のスイベル・ガンといわれなければわからないほどの砲に、ハンドリング用の真鍮線をつけるとか、3本の内の2番目の突起がどことかやらに嵌め込まれるのだがそれが面倒でというから、どこの話かとガレー船「ラ・フロール・デ・リズ」思えばオールの付け根の全部で5ミリの間隔での話だったりする。それも失敗談のように言うのだからまともな人でないことがわかるだろう。こういう人がいるからこの会はすごいしまた楽しい。

会期中の1月19日に新年会があった。当番だった僕らは銀座の“凧ずし”に遅れて参加したが、もうすでに大勢集はたまっていて熱気にあふれている。手の足りない従業員に、待ってたら埒が開き舷側のスイベルガンませんぜと隣の栗田さんが気軽に立ち上がってビールを持ってきてくれる。
会社では大物なんだろうにまことに親切で腰が軽い。ぼくは営業の経験も素質もないからこういう時には大変ぶしつけなことになって気が引ける。わざわざ遠くの沖縄から見えた橋口さんは坊主頭の偉丈夫で元気いっぱい。明日も来るからと熱心だ。新年会には沖縄の橋口さんと大阪の大森会長も参加して頂いたが、多くの会の仲間と交流できるのも展覧会のいいところだ。大分にアルコールが入ってみんないい気分だ。隣にやってきた宮島さんなんぞは手を振って書くんならこんなことを書けばいいと無責任なことをいう。そのうちに気が付くと向かい側に大きな図体をした岩倉さんがいる。「TBSテレビの世界不思議発見で、エジプトの船を出すんで取材に来てさ…」という。彼と津久居さんのエジプト古代船2隻がテレビに出るんだそうだ。

その取材の話が面白かったがお互いアルコールが入っているし、それでなくとも彼は時に舌がもつれてアンニャモンニャになる上にこっちの耳もいい加減古くなっているから全貌は明らかでない。でも後日テレビを見たらどうしてなかなかよく映っている。しかし番組の性質上、船首だけクローズアップされてその点ばかりは気の毒だった。今回の展示会を機にぼくは知らない会員と話をする機会が多かった。近頃は覚えたつもりの名前すらすぐ忘れる。どうか諸兄、寛容の精神を持ってぼくと接していただきたいと常日頃思っていることをわかってほしい。ひょんなことから会場準備の募集に手を挙げたばっかりにちょっぴり展覧会に参加して多くの収穫を得たことは間違いない。あるいはぼくと同じように内気な?人もいるかもしれない。長老だと大事にされるのも悪くはないが、ちょっと手を挙げると容赦なく老人を使ってくれる、つまり老人が必要とされる機会を得ることも大いに結構なことなのだ。ザ・ロープの行事の大事な役目の一つがそれかもしれない。

(福田正彦)



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